タイ法務改正動向:労働者保護法改正の施行

2019年4月に公布された労働者保護法の一部改正が5月より施行されています。タイ企業は従業員の労務事務に当たって、改正後の労働法に従う必要があります。また就業規則等の社内規則も本改正に合わせアップデートの検討や、さらに法定解雇手当の支給額レンジの追加に伴う会計上の退職給付引当金計算へ影響を考慮する必要があります。

改正の主要ポイントは以下の通りです。

項目

改正前

改正後

会社都合での解雇(定年含む)の際の法定解雇手当の支給額レンジ追加

下記5区分の勤務期間に応じて、法定解雇手当が算出されます。

  • 120日~1年 -> 給与30日分
  • 1年~3年 -> 給与90日分
  • 3年~6年 -> 給与180日分
  • 6年~10年  -> 給与240日分
  • 10年以上 -> 給与300日分

※上記「給与」は解雇日の給与をベースとして計算されます。

1区分追加され、下記6区分の勤務期間に応じて、法定解雇手当が算出されます。

  • 120日~1年 -> 給与30日分
  • 1年~3年 -> 給与90日分
  • 3年~6年 -> 給与180日分
  • 6年~10年 -> 給与240日分
  • 10年~20年 -> 給与300日分
  • 20年以上 -> 給与400日分

※上記「給与」は解雇日の給与をベースとして計算されます。

事業譲渡、合併等による雇用者変更の際の従業員の同意

従業員の同意の要否に関して記載なし。

従業員の同意を得ることが必要。

ビジネス休暇(※)

就業規則に定めがある場合、雇用者は従業員の要求に従いビジネス休暇を付与する義務がある。しかしながら有給休暇とする必要はなく、また年間最低日数についても記載なし。

雇用者は従業員の要求に従い年間最低3日のビジネス休暇を有給休暇として付与する義務がある。

今後労務省令により「ビジネス休暇」詳細要件が定められる予定。

法定産休の延長

雇用者は従業員の求めに応じ、90日(内45営業日は有給)の産休を付与する義務がある。

雇用者は従業員の求めに応じ、98日(内45日は有給)の産休を付与する義務がある。出産以前の休暇も産休に含まれる。

休業補償手当の支払い要件

会社都合による事業一時停止の場合の休業補償手当の支払時期及び場所について明確な記載はない。

休業補償手当の支払い時期、支払場所について、雇用者は事前に定める義務がある。

事業所移転に伴う従業員の勤務地変更の手続き

1) 雇用主からの通知方法

2) 従業員が変更を拒否する場合の通知方法

3) 従業員が拒否した場合の雇用契約終了日について、明確な記載はない。

1) 勤務地変更について、雇用者は移転日の30日前には書面で公表(社内の見やすい場所への掲示)により通知をする義務がある。

2) 従業員が変更を拒否する場合は、勤務地変更に関する雇用者の通知から30日以内に必ず書面で雇用者に通知をする義務がある。

3) 従業員が変更を拒否した場合、勤務地への移転日をもって解雇されたものとみなされる。

解雇予告手当の支払時期

従業員を会社都合で解雇する場合の解雇予告手当の支払時期について明確な記載はない。

解雇予告手当は、従業員の解雇日までに支払うことを明記される。

解雇予告手当、休業補償手当の支払遅延利息の引き上げ

解雇予告手当又は休業補償手当の支払いを遅延した場合は年利7.5%の遅延利息が発生する。

解雇予告手当又は休業補償手当の支払いを遅延した場合は年利15%の遅延利息が発生する。

 ※ビジネス休暇 平日のみしか空いていない公的機関窓口での各種手続きや行政からの呼出対応のために付与される休暇。

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 (2019年6月作成)

免責事項

本記事は、作成日時点でのタイの法律等改正動向や一般的な解釈に関する情報提供を目的としております。内容については、正確性を期しておりますが、正確性を保証するものではなく、また作成後の法律改正等により最新の情報でない場合もあります。本記事の利用は、利用者の自身の判断責任となり、利用により生じたいかなるトラブルおよび損失、損害に対してMazarsは一切責任を負いません。個別の具体的な案件を進める場合には、事前に専門家へご相談頂きます様、お願い申し上げます。